名古屋大学 整形外科
鬼頭 浩史
第15回日本小児整形外科学術集会において最優秀ポスター賞をいただき、KPOS-JPOA exchange fellow として2005年10月11日から15日まで韓国ソウルを訪問させていただきましたので、ご報告いたします。
出発前にSeoul National University Children’s Hospital (以下こども病院) のTae Joon Cho先生のご尽力により、丸3日の滞在をKPOS (韓国小児整形外科学会) 発表、KOA (韓国整形外科学会) 参加および施設見学 (Korea University Medical Center Guro Hospital) で過ごすスケジュールが決まりました。初めての韓国訪問であったため、発表以外の日は観光をメインにと密かに期待していましたが、私の学問的要望を次々と尋ねてくるCho先生を相手にして、そのようなお願いは不謹慎かと反省し、しっかり勉強することを心に決め旅立ちました。
初日はインチョン空港に夕方の到着となり、空港まではこども病院のWon Joon Yoo先生に出迎えていただきました。激しい渋滞のなか、名古屋からソウルまでのフライト時間とほぼ同じ時間をかけてようやくこども病院周辺に到着しました。このあたりは学生街で、若者を中心に夜でもにぎわっていました。こども病院のClinical fellowを交えて、KPOS発症の地といわれるレストランでプルコギに舌鼓みをうちながら、Yoo先生とは同年代ということもあって仕事や家族、趣味の話などで盛り上がりました。
翌日の午前中は、こども病院にKPOSのPresidentであるIn Ho Choi教授を訪れました。Choi教授は大変気さくな親日家で、部屋には日本語の医学書まで置いてありました。これまでにこども病院を訪れたJPOAの著名な先生方のサインをコレクションされており、私も恐縮しながらノートの片隅こそっと名前を残してまいりました。その後、Yoo先生に院内を案内していただきました。韓国でも病院間の競争は激しいようで患者サービスが行き届いており、病院の玄関ではドアマンが待ちかまえており、エレベーターではなんとエレベーターガールがにこやかに微笑んでいました。病院と隣接する研究所を見学してから、KPOSの学会場であるヒルトンホテルへと移動し、KPOS board member と昼食ののち学会参加となりました。会場は一つで、参加者も50名程度と少人数でしたが、国内学会であるにもかかわらず英語で発表するドクターもおり、それぞれの演題に活発な討論が繰り広げられていました。特に、韓国人ドクターたちの流暢な英会話には驚嘆しました。私は約15分間、「培養骨髄細胞移植と多血小板血漿を併用した脚延長術の臨床成績」について発表させていただきました。韓国でも細胞移植は盛んになりつつあるようで、いくつか質問もありましたが、何とか無事に発表を終えることができました。
夜は、KPOS member と韓国伝統料理店での大宴会となりました。ゲストとして手厚くもてなされ、かつ無事役割を終えた安心感もあり、ハイペースで気持ちよく飲んでいたのですが、そろそろお開きかと思った瞬間に壮絶な世界が、腕を組みながらウィスキーのビール割りをいっき飲みして空のグラスを鳴らす、という KPOS スタイルでの歓迎が次々と襲ってきたのです。あっという間に、ボトルが数本空けられ、ふらふらになりながらもなんとか親交を深めることができたようです。さらに、二次会のカラオケスナックでも宴は延々と続き、Korean パワーに圧倒されながらも,
日本代表としてアルコールに、歌にと対抗してまいりました (写真1) 。翌日までアルコールが残ったのはいうまでもなく、鎮痛剤で頭痛を抑えながらの KOA 参加となりました。こじんまりとした KPOS に比べ、さすがに韓国版の日整会である KOA は参加者も多く、3つの会場はすべて聴衆でいっぱいでした。KPOS および KOA に招待されていたハーバード大学のJames R. Kasser 教授の講演を中心に聴講しましたが肘関節近傍の外傷や Vascular anomaly まで多岐にわたっており、その見識の広さには驚きました。ちなみに、Kasser 教授は今でも毎朝5時前には起床してpaper work をこなしているそうです。
午後はお待ちかねのソウル観光となりました。Yoo 先生に案内していただき、昨年開館したばかりの美術館、Leeum を訪れました。ここは韓国の大手家電メーカー、サムソンが経営しており、Samsung Lee + museum で Leeum と名付けられたそうです。3つの建物からなるきわめて近代的な外観で、韓国の伝統的な古美術から現代美術常設館まで、内容も多様なすばらしい美術館でした。またハイテクを駆使しており、館内では PDA 端末を手渡され、各展示品の前の床下に埋め込まれた赤外線を PDA 端末が受信すると、作品についての説明が自動的に始まる仕組みになっていました。
さらに、ソウルにある5つの古宮の中の1つ、世界文化遺産である昌徳宮 (チャンドツクン) に移動しました。美しい宮殿の庭園、秘苑 (ピウォン) および広大な宮殿を、約1時間の日本語ガイドツアーで堪能しました (写真2) 。あっという間に時間は過ぎ、夕食は Cho 先生、Yoo 先生とともに、ソウル市内のレストランで、イタリア料理とワインを満喫しました (写真3) 。
3日目は韓国の Ilizarov man といわれている Hae Ryong Song 先生にお世話していただきました。彼は Tissue Engineering にも興味があり、韓国の NIH の研究者とともに軟骨再生の仕事もしており、私の発表に大変興味を示してくれました。驚いたことに、私の知らない間に NIH でもう一度発表するように話が進んでいました。今度は、整形外科的な知識のない研究者を前にして、約1時間の発表および討論で冷や汗をたっぷり流しました (説明のいたらないところは、Song 先生に韓国語でフォローしていただき助かりました) 。
その後ヒルトンホテルに戻り、Tissue Engineering を手がけるベンチャー企業の方々との面談となりました。昼食をとりながら彼らに3度目の話 (冷や汗? ) をするはめになりました (3回も活躍でき、持参したCDも本望かと思います) 。その甲斐あってか、今回用意したデータは臨床結果が中心であったため、改めて基礎研究のデータを話しに来るようにという、ありがたいお言葉をいただきました。
午後は Guro Hospital を訪れ回診、カンファレンスに参加しました。また、骨系統疾患の症例も提示していただき、Song 先生とアカデミックな意見交換をすることができました。彼は Little People of Korea でも積極的に活動し、さらにはそれに関するドキュメンタリー番組にも出演しており、韓国における小人症の父といった存在のようです。
夜はインドからの留学生2名とともに、焼肉 (彼ら2人は宗教上牛を口にすることはできず、申し訳なく思いましたが) と韓国冷酒で盛り上がり、日付が変わるまで韓国での最後の夜を楽しみました (写真4) 。
連日、早朝から深夜までびっしりのスケジュールで、大変充実した日々を過ごすことができました。アルコールを介しての交流が中心でしたが、私にとっては学ぶことも多く大変有意義な滞在となりました。小児整形外科領域の internarional journal に publish される論文の数および内容から、韓国医療のレベルの高さは理解しておりましたが、今回、そのことを再確認するに至りました。 KPOS の構成員は少数精鋭で、ひとりひとりは大変クレバーかつエネルギッシュで、KPOS メンバーであることに誇りを感じているようです。お互いに切磋琢磨しあって、ハイレベルな医療を展開する彼らを目の当たりにし、これまでの我が身を反省するとともに、新たな刺激に身が引き締まる思いで帰って参りました。今後もこのような fellowship により、さらに日韓の交流が深まっていくことを期待しています。最後に、貴重な経験をさせていただきまして、KPOS、JPOA 両学会のメンバーに深謝いたします。