2007年度 KPOS訪問記

佐賀整肢学園こども発達医療センター 整形外科
劉 斯允

さる11月、第18回日本小児整形外科学会の最優秀英文ポスター賞をいただき、副賞として平成20年4月の韓国小児整形外科学会 (KPOS) へ参加する資格を得た。その10日間の韓国訪問を報告する。
出発の2ヶ月前より、日本小児整形外科学会国際委員会の亀ヶ谷先生の仲介で、ソウル大学病院整形外科のProfessor Dr. Choとの連絡を取り始めた。できるだけ多くの病院を訪問したいことを伝え、綿密なスケジュールの打ち合わせの後に、韓国訪問の幕開けとなった。

4月13日、日曜日、福岡空港を出発し、Incheon空港ではResident2年目のDr. Chungが出迎えてくれた。彼の導きでソウル大学病院近くのホテルにチェックインし、当日夜はさらに彼の案内で近くの韓国家庭料理を堪能した。

4月14日、月曜日、朝7時30分、ソウル大学 Senior Professor Dr. Choi、Professor Dr. Cho,とProfessor Dr. Yooに挨拶したあと、早速手術見学に連れて行ってもらった。朝一例目のDr. Choiが執刀する1歳児の内反足手術では、Dr. Choi自身が一つ一つの手順を詳しく説明してくれた。二例目は7歳の先天性下腿偽関節症に対してIlizarovを用いた矯正骨切り術であったが、これもDr. Choiが詳しく説明してくれた。昼には大学近くの学生街でDr. Choとべトナム料理をいただいたあと、市内観光の予定をキャンセルして、Dr. Yooの執刀するRickets病O脚変形に対する大腿骨、下腿骨の矯正骨切り術を見学した。夜は自由行動を希望し、ひとりで明洞にてプルコキ、骨付きカルビを賞味した。
食事後に明洞を散策したが、一年前のソウルにて開催されたWorld Congress of the International Society of Physical and Rehabilitation Medicine (ISPRM) に参加の時と比べ、中国観光客の多さにびっくりした。

4月15日、火曜日、朝7時30分、ソウル大学 case conferenceに参加した。進行はスライド形式で、私に対する配慮から、患者紹介や治療法討論は英語にて行われた。Conferenceのあと、Professor Dr. Souの車に乗せてもらい、彼の属するSamsung medical center を訪問した。旧ソウル市から漢川を渡って江南区に入り、新しい高層ビルが林立する中に病院はあった。江南区は以前、梨の栽培が盛んであったそうだが、今はその影もなく、近代都市に変貌していた。企業主体のSamsung medical centerはがんセンターと本院に分かれ、旧ソウル市内にも小規模な分院を持っている。医師全員にSamsung 製のPDA 携帯電話が渡され、さすがに企業経営という印象であった。昼は職員食堂の利用を希望したところ、一食300円でバイキング方式の美味しい食事が体験できた。午後はProfessor Dr. Shimの執刀する3例の手術を見学した。一例目は他医にて先天性内反股を大腿骨頭すべり症と誤診され、大腿骨頭にピンニングされた症例の抜釘術。二例目は脳性麻痺患児の麻痺性股関節亜脱臼に対する内反骨切り術。三例目は下腿骨折に対するIrizarovを用いた固定術であった。夜はDr. ShimおよびDr. Souと内反足のPonseti法治療を討論しながら韓国家庭料理をご馳走になったあと、KTX(急行列車)でDaejeon市へ移動した。1時間の列車移動だが、下車駅を間違いないように事前に女性車掌に下車の知らせを依頼しておいた。夜11時に車掌の優しい声で目が覚め、無事にDaejeon駅で降りることができた。駅ではEulji university hospitalのProfessor Dr. Kimが迎えに来てくれており、その夜は市内のホテルに泊まった。

4月16日、水曜日、朝6時30分にFellow のDr. Kungの迎えで一日が始まった。まず7時からのmorning conferenceに参加した。昼までDr. Kimとお茶を飲みながら、症例のX線を見せてもらい、治療法について討論した。歩行解析やボトックス治療、脳性麻痺の痙性筋の解離術について日韓両国間の同異を話し合ったが、こども達の治療に熱い気持ちの持ち主だと実感した。また、韓国の医学部卒業後のキャリア形成システムを詳しく教えてもらった。韓国医学部はこれまで2年間のpremedical education後に4年間の医学専門課程というシステムであったが、4年間のpremedical education後に4年間の医学専門課程というシステムへの変換を検討されているとのことであった。現在は、卒業後に1年間のInternと4年間のResident研修の後、Broad testという専門医試験を受けて、Fellowになる資格を取得する。資格試験後に、大半の男子は3年間の兵役に参加する。退役後にFellowとして病院勤務をはじめる。また、韓国ではFellowになってからの海外留学が一般化しており、数年後に全ての医学部に4年間のpremedical education制度が導入されれば、落ち着いて専門分野に専念できるのはすでに30歳後半なるであろうという厳しい現実を知った。午後はDr. Kimの執刀する脳性麻痺患児の筋解離術2例と胸背部の化膿創掻爬術を見学した。夕食はDr. KimとProfessor Dr. Ahnと韓国料理を賞味した。食事中に足専門医のDr. Ahnから外反扁平足の治療プロトコールを紹介してもらった。

4月17日、木曜日、朝7時にEulji university hospital のFellow 2名と共に、KTXにて本年度開催される韓国整形外科学会 (KOA) 会場のDaegu市へ移動した。車内で日韓両国間の医療保険制度について討論しながら、あっという間の1時間で韓国第三の都市Daegu市に到着した。会場のHotel interburgoは市内最大のホテルであり、KOA会長のKye-Myung universityのProfessor Dr. Songはなんと私のためにスイートルームでの宿泊を用意してくださっていた。今回私の発表するKPOSの症例検討会はKOAの二日目にあたり、同日には6つの分科会が開催される予定であった。初日午後はKOAの発表を聞いてみたが、韓国語の発表であった。しかしスライドの英文部分を一生懸命読んでいると、ある程度の理解はできた。夕食はDr. Songの会長招宴に参加した。夜9時に招宴が終了。Daegu市内の夜店を見に行きたかったが、翌日の発表もあるので、豪華なスイートルームでひとり発表の練習をした。

4月18日、金曜日、朝8時にKPOSの会場に行き、スライドチェックを済ませ、8時45分から症例検討会に参加した。症例検討会の第一演者が英語で発表すれば全員が英語で発表しないといけない、韓国語の発表なら全員が韓国語で発表になるという暗黙の了解があるらしい。第一演者の韓国語発表を聞いたほかの演者らのほっとした表情が印象的であった。演題は症例検討16題以外に、アメリカShriner’s hospital Dr. Harry Kimのペルテス病病理変化に関するspecial lectureと私の脳性麻痺に対するボトックス治療の発表で計18題であった。参加者はおよそ70人で、活発な討論が繰り広げられた。私の発表に関して、2つの大学のスタッフから、私たちの施設で考案したGMFCSレベルⅤ脳性麻痺患児の評価法に興味を示し、彼らの大学でも使わせてほしいという反響があった。検討会の最後に、Dr. Songより感謝状をいただき、身に余るような光栄を感じた。午後はソウル大学のDr. Cho、慶北大学のDr. OHそしてDr. Harry Kimのご家族(奥さん、二人の小学低学年のお嬢さん)と一緒に慶州観光に出かけた。慶州は新羅王朝の都であり、多くの遺跡が存在し、ユネスコより二つの世界遺産指定を受けている。遺跡めぐりの観光中にDr. Harry Kimの可愛いお嬢さん達と仲良くなって楽しい時間を過ごせた。夜は民族舞踊を観賞しながら韓国家庭料理をいただいた。

4月19日、土曜日、朝8時にKTXにてソウル市に移動。週末はフリーな行動を希望し解放してもらったので、この日は王様の宮殿(景徳宮)、南大門市場や2ヶ月前に放火にあった南大門の焼け跡を見てきた。夜は明洞で安東地方の鳥煮込み料理を食べてみた。柔らかい鶏肉と豆腐、餅の風味はじつに素晴らしかった。安東地方は韓国北部にあり、安東産の韓牛も有名であるが、これは次回の韓国旅行の楽しみにとっておくことにした。日曜は免許なしで可能な実弾射撃を体験し、昼は念願の豚三枚肉の焼肉を食べにいった。この食堂の従業員さんと韓国版ノド自慢のテレビ番組を鑑賞することとなり、仲良くなったおかげで漬物やキムチがどんどん出てきて、結局二人前の焼肉が1800円の安さで大満足。午後は梨泰院を散策、休憩時に列車の椅子を使ったカフェで韓国お茶をもらい、先日の疲れを癒す週末となった。

4月21日、月曜日、朝7時にソウル大学関連病院のBundang Hospital Dr. Lieの迎えで同院を訪問した。ソウル大学関連病院はソウル市内に本院、Bundang Hospitalと Boramae Hospitalの三つの病院がある。神経筋疾患は Bundang Hospital、内反足や先天性股関節脱臼を含む先天性疾患は本院を中心に診療している。韓国の神経筋疾患治療の大家のProfessor Dr. Chungに是非会いたいという希望を叶えるための訪問であった。Bundang Hospitalは5年前に完成、地下3階から地上14階の病院に1000床の入院設備を有しており、整形外科はこの中120床を所有、15名のスタッフや12名のFellowが所属している。副院長兼任のProfessor Dr. Chungの下、脳性麻痺や足の外科を専門にするProfessor Dr. Parkが整形外科実質上のリーダーである。午前中はDr. ParkとX線フィルムのMigration IndexとAcetabular Indexによる脳性麻痺患者の股関節手術適応の決定が妥当かどうかについて論議した。午後はDr. Chungの外来診察を見学した。外来は2室を使用し診察のみ、電子カルテの記録は記録係の女性スタッフによるものであった。夜はDr. Chungの厚意で韓国うなぎ料理をご馳走になった。

4月22日、火曜日、朝7時30分、ソウル大学のcase conferenceに参加した後、ホテルに戻って荷造りし、10日間の訪問を無事に終えて帰国した。

今回の韓国訪問で多くの友人をつくることができました。また、日韓両国の医学制度や医療実情に関して深く論議することもできました。この場をお借りして、このような機会を与えてくださった浜西JPOA会長ならびに日本小児整形学会国際委員会の先生方、特に連絡の労をとってくださいました亀ヶ谷先生に深く感謝の意を述べ、私の報告のしめとさせてもらいます。