獨協医科大学越谷病院 整形外科
垣花昌隆
このたび第6回Murakami-Sano-Sakamaki Asia Visiting fellowshipに選出いただき約2週間半かけてマレーシアとカンボジアを訪問させていただきましたので報告させていただきます。
当初3月下旬の訪問を予定していましたが東北・関東大震災の影響もあり6月26日から7月12日までの17日間となりました。
マレーシアではUniversity Maraya medical center(UMC) のProf. Saw Aikのもとでお世話になりました(図1)。UMCはクアラルンプールの郊外にある大学病院で約1500床の大きな大学病院です。そこの小児整形および変形矯正班に参加させていただきました。小児整形班はProf.Saw AikのほかDr.S.SenguptaとスーダンからのフェローのDr.Asim Abdel Moneimの三人がスタッフでその下にレジデントの先生がいました。Dr.S.Senguptaは今は現役を引退されていますがカンファレンスや外来などにいらして指導されていました。 朝8時からカンファレンスを行いその後病棟回診をおこないます。午後は外来を見学したり内反足のギブス巻きを手伝わせていただいたりしました。外来は主にレジデントが診察を行いスタッフの先生方がすべてのブースをまんべんなく回りながらアドバイスをするというシステムでした。患者さんはマレーシア人、中国人、インド人の3つの人種がいて患者さんにあわせてマレー語を使ったり中国語を使ったり英語を使ったりしていました。いろいろな患者さんがいてフィッシュマーケットのようだとみんな話していました。疾患ではBrount 病の患者さんが多く創外固定を用い変形矯正を行っていました。なぜかペルテス病の患者さんは少ないようでした。
先天性内反足はPonseti法を行っていました。主にDr. Asimが担当していてお手伝いさせていただきました(図2)。キャスト後はDB装具を使用していましたが低所得者の患者さんが多く装具を購入することができず普通の靴を利用した外転装具を作成し使用していました。装具に対する両親のコンプライアンスはかなり悪い印象を受けました。
木曜日が手術日で手洗いをして参加させていただきました(図3*施術画像)。骨髄炎の骨切除後の骨延長、内反足の遺残変形に対するイリザリフを用いた変形矯正、マレーシアでは非常に珍しいペルテス病の内反骨きり術、など基本的に我々が日本で行っている手術と変わりはありませんでした。かなりコストのことを気にされているようでハーフピンは数回使用することもあるようでした。
1日はクアラルンプールの南東にあるUniversiti Kebangsaan Malaysia Medical CentreのProf. Shalaf Ibrahimを訪問させていただきました(図4)。Prof. Shalaf Ibrahimは以前福岡こども病院へ留学されていたことがありとても親日家の先生でした。Prof. Shalaf Ibrahimはとても豪快な教授でしたがとても優しく外来実習に来ている学生にも厳しくも優しくし指導されていました。学生は日本の学生と変わりなくとても素直でまじめで真剣に実習に取り込んでいました。ちなみにマレーシアでは医学部が5年間でその後2年間の研修医がありその後専門医になるのであれば4年間のレジデントを行います。レジデントの給料は日本円で約20万円で月4から5回のオンコールがあるそうです。7年たっても専門医試験に受からなければ受験資格を失うそうです。Universiti Kebangsaan Malaysia Medical Centre では当院で最近行っているイリザロフを用いた大腿骨引き下げ術と関節鏡下脱臼整復術についてレクチャーをさせていただく機会をいただきました。
1日は以前UMCで働いてたDr. Robert Penaformを訪問させていただきました(図5)。彼が月一回小児整形外来に行っているKRANGという町にあるTengku Ampuan Rahimah Hospitalを訪問しました。
ここでは外来に参加させていただき治療法についていろいろ討論させていただきました。ここは低所得者が多く住んでいる地区で、せっかくPonseti法を行ってもお金がなくブレースをつけないため再発した症例がかなり多く外来でみられました。両親のコンプライアンスがかなり悪い地区でした。お金がなく十分な治療を子供たちにできないことが最大の問題だと感じました。
7月8日からはカンボジアへ移動しました。カンボジアはProf. Saw AikeがプノンペンでAOセミナーを行い、その後シュリムアップの小児病院を訪問することになっていたため一緒に同行させていただきました。AOセミナーではカンボジアの整形外科学会会長のDr. Buntha SokとプノンペンのNational Pediatric Hospitalで働くDr. Chhoeurn Vuthyから話を聞くことができました(図6)。カンボジアには小児病院が6つあります。小児整形は主に小児外科医がみるため整形外科に子供が来院すると小児病院へほとんど紹介するそうです。プノンペンでの小児病院では先天性内反足だけは医療費が全額免除になるそうです。それは多くの内反足の患者さんが貧困層だからだそうです。
7月10日からはアンコールワット遺跡のあるシュリムアップに移動しました。プノンペンからシュリムアップまでは飛行機、船、車の三種類の移動方法があります。今回は地元の方もいいたため陸路で移動しました。約6時間かけて途中舗装されてないところが何カ所もありましたが遺跡へ立ち寄ったり露店で買い物をしたりしながら移動しました。
シュリムアップではアンコール小児病院を訪問しました(図7)。アンコール小児病院は日本人のカメラマンの井津建郎氏によって創設されたNGO団体の病院です。NGO団体の病院は基本的に医療費は全額免除ということでした。外来はラッシュアワーの駅のような混雑でした。外科医は4人いました。そのうちの一人のDr. Sar Vuthyからいろいろ話しを聞くことができました。整形疾患は主に外傷が多いようでしたが驚いたことにカンボジアにはTraditional manという人物が存在していて病院へ来院する前におまじないのような治療を行い変形治癒してから外来へあらわれる患者さんがまだ存在するとのことでした。カンボジアの小児病院を訪問し我々が何かできることはないかいろいろ考えさせられました。若手医師、コメディカルの教育、彼らがトレーニングできる環境の提供と援助などが必要だと感じました。
約2週間半と短い期間でしたがたくさんの施設を訪問し、たくさんのことを学ばさせていただきました。清水克時理事長並びに選出いただいた川端秀彦先生初め小児整形外学会の先生方に深謝いたします。