2005年度 Murakami-Sano asia visiting Fellowship ジャカルタ訪問記

福岡市立こども病院 整形外科
和田 晃房

第2回Murakami-Sano Asia Visiting fellowshipに選任され、2006年の2月6日から16日までジャカルタのインドネシア大学Ciptomangukusumo病院及び、小児整形外科関連病院を訪問いたしましたので、ご報告いたします。

インドネシアは、5000km以上と東西に非常に長く、赤道をまたぐ1万を超える大小の島により構成され、人口は世界4位の約2億3000万人を誇ります。ジャワ人、スンダ人、バタッ人など大多数がマレー系住民で、その他中国系やパプア系住民などで構成される多民族国家です。90%弱がイスラム教徒で、朝夕街中いたるところでコーランが響いていました。乾季と雨季のふたつの季節があり、訪問した時期は雨季で、午後になるとスコールが襲います(図1)。赤道近く南に位置するため太陽は真上に感じられ、晴れていれば強い日差しを受け、雨が降れば湿度が高く、空調の利かない施設が多くとても蒸し暑く感じました。今回訪問しましたジャカルタはインドネシアの首都で、人口は約1100万人と同国の最大都市です。しかし、電車やバスなどの公共の交通機関の整備が不十分で、皆が車やバイクで移動するため、朝から晩まで街中大渋滞でした。

ジャカルタ滞在中は、Siregar先生(図2)がスケジュールを組んでいただきました。主にインドネシア大学に併設されているCiptomangunkusumo病院に滞在し、郊外の肢体不自由児施設(図3)や、外傷や脊椎の病院も訪問しました。Ciptomangunkusumo病院では、インドネシア各地より約15名の整形外科研修医が研修しており、医学生の講義(図4)も行われておりました。インドネシアの研修制度では、初期研修終了後、一般外科を習得してから整形外科医となる必要があり、また、一般外科でも整形外科の治療を普通に行えるため整形外科専門医は少なく、約2億3000万人の人口に対してわずか270名余りとのことでした。しかし、整形外科専門医となり、整形外科の特殊な手術に修錬すれば、日本と異なり多数の私立病院で手術を行い莫大な収入を得られるので、整形外科の人気は高いようでした。整形外科研修医は、人工関節置換、最小侵襲手術、関節鏡や靭帯再建、脊椎手術に興味を持ち、よく質問されました。しかし、私自身が、人工関節などの治療を行うことはなく小児整形外科の仕事のみ行っていることや、公立病院のみで働き私立病院と掛け持ち仕事ができず、固定給であることを話すととても驚かれました。

夜は、Siregar先生や整形外科研修医の先生達と食事に出かけました。インドネシア料理では,ココナッツ油で揚げた地鶏の唐揚げ(ayam goreng)、焼き飯(nasi goreng)、焼きそば(mie goreng)、また、鶏肉や山羊肉を用いた焼き鳥(sate)が有名です。出来合いの料理を次から次へと並べるスマトラのパダン料理(図5)も印象的で、一度に20以上も皿が並び、好きな皿を分け合い食べた分だけの勘定です。香辛料がかなり効いた料理ばかりでしたが、とてもおいしくいただきました。
また、独特の匂いで有名なフルーツの王様ドリアンもいただきました。皆大きなかたまりを手づかみで食べておりました。インドネシア産のものは特に匂いや味がきついそうです。

小児整形外科疾患のほとんどが外傷でした。ほとんどの患者は、最初にbonesetterに行き治療を受けるため、変形治癒例や見逃し例が多いのが特徴的です。保険医療制度が整備されていないので診断されても治療を希望せず、またbonesetterへ戻ってしまうことも多いそうです。診療費の安いbonesetterは広く普及しており、滞在中に診た上腕骨顆上骨折変形治癒の児の父親が一般外科医であったにもかかわらずbonesetterで治療を続けていたことに驚かされました。

先天性股関節脱臼は、乳幼児健診がないので放置されることがほとんどで、内反足の患者よりはるかに少なく、治療する機会は少ないそうです。治療は年長児で行うことが多く、観血整復術とソルター骨盤骨切り術で対処しているとのことでした。日本では、乳幼児健診での見逃し例が問題となる厳しい医療情勢ですが、乳幼児健診自体の重要性を再認識させられました。
内反足は、外見上の変形がありますが、両親がbonesetterに連れて行き、整形外科を受診しないことも多いそうです。滞在中に3歳過ぎて受診した内反足に対する後内側解離術を見学しました(図6)。
感染は、結核性関節炎が多いのが特徴的です。2005年のWHOの統計で、インドネシアの結核の推定新患者登録数は62万7千人、罹患率は人口10万人対285人と、結核中進国である日本の罹患率23人と比較しても圧倒的に多く、入院患者に脊椎カリエスが多いことに驚きました。

連日、日本では診る機会の少ない疾患に触れ、充実した日々を過ごすことができました。また、多くの施設を訪問したことによりインドネシアの整形外科の先生方と親交を深めることができました。今後もfellowshipが継続されることにより日本とアジア諸国との連携が更に深まることを願います。最後にこのような機会を与えて下さいました国分正一理事長、亀ヶ谷真琴国際委員会委員長をはじめとする日本小児整形外科学会の先生方、関係者の皆様に心より御礼申し上げます。

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