このたび2015年度Iwamoto-Fujii Ambassadorとして2015年5月9日~24日Boston Children’s HospitalとToronto SickKids Hospitalを訪問しましたのでここに報告します。
【はじめに】
まず本Fellow-shipに応募した動機ですが、私も兵庫県立こども病院の勤務が20年を超え小児整形外科疾患に対してはそこそこ何でもできるといった妙な慢心が心に宿るようになってきました。
それに伴い新しいことにchallengeするmotivationが徐々に低下してきていわゆるmannerismに陥っているのではないかと思い始めました。
これではいけないと一念発起し、新しい世界を見たいと考えているときにこのFellow-shipが設立されました。
自身が国際委員会のメンバーでもありちょっと厚かましいかなと思いながらも迷わず応募しました、またどうせ見るなら世界の最高峰をという事でこの両病院を選択しました。
【Boston Children’s Hospital】
小児病院ながら整形外科医の数がfellow, residentを含め約70人、整形外科単独での年間手術件数が約6000件というsuper aggressive hospitalです(Fig 1)。
またPOSNAでは毎年多くの演題を発表しpeer reviewed journalにも多くのarticleを載せているsuper academic hospitalでもあります。
亀ヶ谷先生がHip groupのchiefであるDr Millisと親交が深いとのことでご紹介いただきObserverとしてカンファレンス, 手術、外来診療を見学させていただく事となりました。
ここではまずなんといってもDr Millisです(Fig 2)。私はこれほど強烈な個性を持った人物を知りません。
小柄な先生ですが大きなだみ声で喋りだしたら止まりません。失礼ながら半分引退された方かと思っていましたが朝早くからのカンファレンス、手術日には1日中立ちっぱなしの手術、朝から夕方までかかる外来すべてに参加しておられまさに現役バリバリといった感じです。
御年72歳とのことですがいまだ全身からアドレナリンがほとばしりでている感じでした。
また親日家でもあり日本にも4回来られたことがあるそうで、突然【おはようございます!】と日本語でしゃべりかけてきて驚く僕を見て喜んでいるというこどものような部分も持っておられます。
このMillis率いるBostonのhip groupの最も大きな売りはPeriacetabular Osteotomy (PAO)だと思います。あまり日本では行われていない術式だと思いますがここでは普通に1日2件とか行われています。
他にもSurgical dislocation, Hip arthroscopyなども数多くされておりこれらの手術を見たことの無い私には非常に新鮮に映りました(Fig 3)。
いずれも対象患者は10代後半から20代前半が多く、彼らは純粋なchildren’s hip surgeon というよりyoung adult hip surgeonの色合いが濃いgroupだと思います。
ちなみにMillisはRAOも昔やっていたそうですがPAOのほうが手技的に簡単で術後の固定力が優れているためPAOに変更したと言っていました。
現在、Hipの領域ではFAI (femoroacetabular impingement) 関連の発表が大流行ですが私には実感としてもうひとつピンとこないものがありました。
実際、小児整形外科医でFAIの症状を呈する患者を診られた先生は少ないのではないかと思っています。
たとえretroversionがあろうがCam deformityがあろうが現実にanterior impingement signを有する患者は非常に少なく(SCFEの患者を除けば)本当は病的なindicatorではないのではないかとさえ考えておりました。
しかしここでは本当にFAIの症状を持つ患者が多くいました。CE角が40度くらいありretroversionが認められる患者は本当にanterior impingement signを有しておりこれらの患者に対しreverse PAO(末梢骨片の反対移動)なる手術が行われていました。
またDr Kimは人種別の大腿骨前捻角を比較し東洋系の女性は頚部前捻角が欧米人に比べ強いためFAIを起こしにくいのだと説明してくれました。
滞在最終日にはMillis Hip Preservation Symposiumというのが病院で開催され私も参加させてもらいました。
Closedな会ですがSchoenecker, Sponseller, Byrd, Sankerなどそうそうたるメンバーが集まり最近のpediatric hipのtopicsについてlectureを行うというもので非常に勉強になりました。
その後のpartyにも呼んでいただき豪華なフレンチをご馳走になりBig nameたちと交流させていただきました(Fig 4: Millisに対する寄せ書きなども回ってきてさながら引退セレモニーのようでありました)。
【Toronto SickKids Hospital】
Bostonほどではありませんが整形外科医の数がfellow, residentを含め約20人, 年間手術件数が日帰り手術を除き1200超というこちらもsuper aggressive hospitalです(Fig 5)。
言わずと知れたSalter教授が勤務しておられた病院でありSalter骨盤骨切り術の生みの親の病院とも言えます。
当院とSickKidsには1968年に香川弘太郎先生が実際にここを訪れSalter教授の手術を見学されその後日本で本術式を広められたという関連があります。私もぜひここを訪れたいと思い病院のホームページからObserverの申し込みを直接行いました。
ここでのSupervisorはDr Gargan(Fig 6)で昨年UK(英国)より赴任されたとのことです。Torontoの街自体が人種のるつぼといった感じですがここの医局もスタッフにフランス人1人、インド人1人がいます。
さらに現在いる6人のfellowにはカナダ人が一人もおらずUK2人、アイルランド人1人、アメリカ人1人、イタリア人1人、日本人1人と様々です。まさにワールドカップが開催できるくらいinternationalな医局でした(Fig 7)。
日本にもこんな時代が来るのでしょうか?SickKidsでのHipはDr WedgeがSalter教授亡き後、引き継いでおられます。Millisとおそらく同年代ですがこちらは半分retireされた感じがあります。
カナダは移民が多く彼らはhipの乳児健診を受けないことが多いためWalking ageのDDH(developmental dysplasia of the hip)が社会問題になっているとのことです。
私が滞在中にも1歳2か月のChinese girlのDDH患者が初診で来ていました。Wedgeは一昨年JPOにpublishされたあいち小児センターの金子先生の牽引療法の論文を私に見せてしきりに【これは素晴らしい論文だ!】と褒めたのち、【ただしfinance的にもcustom的にもカナダでは受け入れられない】とも言っておられました。
ちなみに滞在中、1歳のDDH患者に対し内側アプローチで腸腰筋と内転筋の一部を切離し関節包は開けずにそのまま整復し開排位でギプス固定という手術を行っていました。牽引で時間をかけて軟部組織を緩める代わりに手術で一気に切腱を行うという手技であり日本には無い発想だなと思いました。
またBostonでもそうですが新生児期のDDH患者に対しても普通にPavlikを装着します。日本では新生児期の脱臼股に対しPavlikを装着すると重度の壊死を起こす可能性が高いから禁忌と考えられていると説明すると【evidenceはあるのか?】と聞かれ返答に窮してしまいました。
日本との考え方の違いの一面を垣間見た気がしました。最後に本病院にはspine fellowとして東京大学から来られた加藤壮先生が勤務しておられ訪問前、訪問中に非常にお世話になりました。紙面を借りて御礼申し上げます。
【雑感】
両病院ともObserverとして1週間程度の訪問でしたが必要な書類はimmunological recordsを含め膨大です。
またcontactをとるに当たり日本人的感覚でいうとメールのresponseが遅く結構イライラしましたがこれもglobal standardというやつでしょうか?あと正直英会話には苦労しました。もともとそれほど自信があったわけではありませんがもう少しできるのではと思っていました。
相手が自分に向かってゆっくりしゃべってくれると理解できるのですがnative speaker同士がしゃべっている内容がなかなか分かりません。まるで外国映画を字幕なしで見ているような感覚です。しかしながら世界に向けて日本の情報を発信するに当たって英語は必須です。
POSNAやEPOSではもちろん英語でpresentationするわけですしObserverとして訪問する場合でもTOEFLの点数を送るよう要求する病院もでてきているようです。やはり英会話は普段から勉強しておく必要があります。若い先生方、頑張ってください!(私はもう年齢的に許される?)
【おわりに】
短い滞在期間ではありましたが今回の北米訪問を通じ、各疾患に対する治療法の違い、システムの違いを認識することができました。両病院とも素晴らしいものでしたが日本にも素晴らしい点が数多くあります。
またこの歳にしてこれほどexcitingでenjoyableな数週間を経験できるとは思いもよりませんでした。本Fellow-ship創設の岩本幸英先生、藤井敏男先生、川端秀彦国際委員会委員長をはじめとする日本小児整形外科学会の先生方にこの場をお借りして心より感謝申し上げます。
また今後も多くの先生方がこの制度を利用し世界に向け羽ばたいていかれることを強く希望いたします。
兵庫県立こども病院
小林大介